森に入って間もなく、アリアが目を輝かせて声を上げた。
「えっ!? わぁ〜すごーい! ここ、薬草いっぱいあるよ!」
地面にしゃがみ込み、手際よく葉を選びながら、アリアは興奮気味に薬草を摘み取っていく。その目は真剣そのもので、まるで宝探しをしているかのようだった。
「ん? アリアちゃん、なにをよろこんでるのー?」
ミーシャは、アリアの反応に首をかしげた。大きな青い瞳がぱちぱちと瞬き、表情には純粋な疑問が浮かんでいる。
「これね、ポーションの材料になる薬草なんだよ。ちゃんとしたのを見つけるのって、けっこう大変なの。でも、ここはすごく質がいいのがたくさん生えてるの!」
アリアは、ミーシャに葉の形や色を見せながら、嬉しそうに説明した。
「へぇ〜……すごいねぇ。アリアちゃん、くわしいんだね!」
「えへへ、ありがと♪ ミーシャちゃんも、これ見て。葉っぱの先がちょっと丸くなってるのが、いい薬草のしるしなんだよ」
「ほんとだ〜! これ、そう?」
「うん、それそれ! 上手だよ、ミーシャちゃん!」
ふたりはすっかり打ち解けた様子で、楽しそうに薬草を探し始めた。その様子を、ユウヤは少し離れた場所から見守っていた。
(……なんか、いい感じだな)
森の中に響く笑い声が、静かな木々の間を心地よく揺らしていた。
♢チート級の討伐と隠しきれない能力アリアが薬草を見つけて嬉しそうにしていると、ミーシャが不思議そうな顔で首を傾げ、大きな瞳でじっとアリアを見つめてきた。
「えっとね、この葉っぱをね、わたしが集めてるんだー」
アリアがにこやかに説明すると、ミーシャの目がぱっと輝いた。新しいことを知る喜びに満ちた表情で、尻尾がふわふわと揺れている。
「そうなんだー! わたしも手伝うー!」
ミーシャは嬉しそうに声を上げ、アリアの隣にしゃがみ込んだ。その様子はまるで、姉の真似をする妹のようだった。
「アリアが喜ぶからって、一人で森に入って薬草を採るなよ?」
ユウヤが少しだけ鋭い声で釘を刺すと、ミーシャは「うぅ……」と頬を膨らませ、ちょっと焦ったような顔をした。
(やっぱり……一人で入ろうとしてたんだな。まったく、もぉ……でも、アリアを喜ばせたかったんだよな)
ユウヤは、ミーシャの気持ちを理解しつつも、危険な行動を見逃すわけにはいかないと、心の中で小さくため息をついた。
「……でも、ありがとな。気持ちは嬉しいよ」
そう付け加えると、ミーシャは少し照れたように笑い、アリアの方を見てまた薬草を探し始めた。
「じゃあ……魔獣の討伐は俺がやってくるから、アリアとミーシャは薬草の採集を頼むな」
ユウヤが提案すると、アリアは少し眉を下げて、申し訳なさそうに言った。
「えぇー……ユウくんに悪いよ。ひとりで危なくない?」
「えっと……じゃあ、ミーシャの面倒を頼んだ!」
ユウヤがそう言うと、アリアはすぐに合点がいったように表情を明るくし、元気よく頷いた。
「あ、そっか……魔獣の討伐の方には、ミーシャちゃんが一緒だと危ないのかぁ。うん、任せて♪」
「そこの薬草の群生地から出るときは、ちゃんと声かけてなー」
「分かったよー!」
ユウヤは、ふたりが薬草を採集している群生地の周囲に、簡易結界を張った。視界を遮らず、外からの侵入を防ぐ防御結界。ふたりの姿が常に見える位置に立ち、ユウヤは剣を抜いた。
(さて……こっちはこっちで、気を引き締めないとな)
森の奥から、音と匂いに引き寄せられるように、魔獣たちが次々と姿を現し始めた。唸り声を上げ、牙を剥き、獰猛な気配を漂わせている。
その中には、ユウヤでも名を知っているような、危険度の高い上級魔獣の姿も数体混じっていた。黒い体毛に覆われた四足獣、鋭い角を持つ獣人型の魔獣、そして空を滑るように飛ぶ蛇のような影――。
(……さすが、獣人たちが討伐を依頼してくるだけのことはあるな)
ユウヤは静かに息を整え、剣を構えた。背後には、守るべきふたりがいる。だからこそ、ここで一歩も引くわけにはいかなかった。
(まともに戦ってたら、この辺りが踏み荒らされて、薬草の採集どころじゃなくなるな……)
ユウヤは、魔獣たちの数と動きに目を走らせながら、冷静に状況を分析した。薬草の群生地を守るためには、長期戦は避けたい。だからこそ――。
(ズルだけど……今回は、必殺技を使わせてもらう)
ユウヤは静かに詠唱を始めた。魔力が空気を震わせ、周囲の魔獣たちが一瞬、警戒するように身を低くする。
「《魔核強制抽出》」
その言葉とともに、ユウヤの手から放たれた魔力が、魔獣たちの体内にある魔石――魔核を直接引き抜いた。魔核を失った魔獣たちは、苦しむ間もなく崩れ落ちる。
倒れた魔獣の死体から素材を素早く回収し、残骸は転移魔法で地中深くへと送り込む。痕跡を残さず、証拠も残さず、まるで何もなかったかのように。
(……よし、気づかれてないな)
ちらりとアリアたちの方を確認すると、ふたりは薬草採集に夢中で、こちらの様子には気づいていないようだった。ユウヤは小さく息を吐き、次の行動に移る。
(さて……次は中級クラスとやってみるか)
♢家族のような時間「はぁい、よく頑張りましたぁ〜♪」 その声はどこかお姉さんぶっていて、けれど優しさに満ちていた。ユウヤの髪を優しく撫でるアリアの手は、どこかくすぐったい。 その様子を見ていたミーシャが、ぱたぱたと駆け寄ってきた。そして、アリアの真似をするように、ユウヤの頭に小さな手をそっと乗せた。 ミーシャの手はとても小さくて、まるで子猫に撫でられているような感覚だった。「あはは……♪ ユウくん、子どもみたーいっ」 ミーシャは、くすくすと笑いながら、ユウヤの頭を撫で続ける。「……いいじゃん。他に人がいないんだしさ……」 ユウヤは照れ隠しのように言い返したが、その声はどこか弱々しく、耳までほんのり赤く染まっていた。 すると、ミーシャがぱっと指を差してきた。「ユウちゃん、顔があかーい♪」 その無邪気な声に、アリアもつられて笑い出す。「ほんとだ〜。照れてる照れてる〜♪」「……うるさいなぁ」 ユウヤは顔をそむけながらも、どこか嬉しそうだった。 森の中に、三人の笑い声が穏やかに響いていた。それは、まるで家族のような、あたたかい時間だった。♢魔改造キッチンとそれぞれの仕事 家に帰ると、アリアが玄関をくぐった瞬間、驚いたような声を上げた。「ゆ、ユウくん、ユウくんっ! なにこれ!? なんか変だよ……っ!」 その声にユウヤはハッとした。(ああっ……忘れてた。昨日の夜、調子に乗ってキッチンも魔改造してたんだった……) ユウヤはバツの悪そうな顔で頭を掻いた。「あ……それ、昨日の夜さ。一人で暇だったから……。俺、料理も家事もできないし、手伝えないからさ。アリアに少しでもラクして
ユウヤは腰の後ろから一本の剣を取り出した。かつて、冒険者になるお祝いとして両親から贈られた、中古の剣。魔術師である自分には場違いな武器だったが、捨てることもできず、手元に残していた。(……俺、魔術師なんだけどなぁ) そんな苦笑い混じりの思い出とともに、ユウヤはその剣を自らの手で“魔改造”していた。魔力を通すための導管を仕込み、刃には魔法陣を刻み、魔術と剣術の融合を目指した一本。 今、その剣が静かに鞘から抜かれる。(さあ、試してみるか――俺の“もうひとつの戦い方”を) ユウヤの瞳が鋭く光り、次なる戦いに向けて、静かに歩を進めた。 魔改造――といっても、そこまで大げさなものじゃない。 剣に魔石を嵌め込み、ナイフ程度の切れ味と耐久性を底上げし、ついでに軽いステータス異常を付与しただけだ。 斬られれば、速度の大幅低下、視界不良、全身の痺れ――その程度。 致命的ではないが、戦闘中に受ければ十分に致命傷になり得る効果だ。(まあ、間違って自分を斬っても、俺にはステータス異常無効のスキルがあるし大丈夫) 念のため、アリアやミーシャがうっかり触って指を切っても、ステータス異常だけで済むように調整してある。寝ていれば自然に治るレベルのものだ。(毒とか、持続ダメージ、即死効果も付けようと思えば付けられたけど……) それはやりすぎだと判断した。 万が一、誰かが誤って手を切ったら――それは“事故”では済まされない。 危険なものを作るより、即死させたいなら魔法で安全かつ確実に仕留めた方がいい。 剣に持ち替えて攻撃してみると、これが意外と面白い。 魔法と違って、手応えがある。 防がれても、かすり傷さえ与えられれば、ステータス異常で魔獣の動きが鈍る。 そこを突けば、たいていは止めを刺せた。 ただ、上級の魔獣となると話は別だ。 外皮が異常に硬かったり、魔力で全身を覆っていたりして、そもそも傷がつかないやつもいる。(いちいち魔石を回収して倒すのも、
森に入って間もなく、アリアが目を輝かせて声を上げた。「えっ!? わぁ〜すごーい! ここ、薬草いっぱいあるよ!」 地面にしゃがみ込み、手際よく葉を選びながら、アリアは興奮気味に薬草を摘み取っていく。その目は真剣そのもので、まるで宝探しをしているかのようだった。「ん? アリアちゃん、なにをよろこんでるのー?」 ミーシャは、アリアの反応に首をかしげた。大きな青い瞳がぱちぱちと瞬き、表情には純粋な疑問が浮かんでいる。「これね、ポーションの材料になる薬草なんだよ。ちゃんとしたのを見つけるのって、けっこう大変なの。でも、ここはすごく質がいいのがたくさん生えてるの!」 アリアは、ミーシャに葉の形や色を見せながら、嬉しそうに説明した。「へぇ〜……すごいねぇ。アリアちゃん、くわしいんだね!」「えへへ、ありがと♪ ミーシャちゃんも、これ見て。葉っぱの先がちょっと丸くなってるのが、いい薬草のしるしなんだよ」「ほんとだ〜! これ、そう?」「うん、それそれ! 上手だよ、ミーシャちゃん!」 ふたりはすっかり打ち解けた様子で、楽しそうに薬草を探し始めた。その様子を、ユウヤは少し離れた場所から見守っていた。(……なんか、いい感じだな) 森の中に響く笑い声が、静かな木々の間を心地よく揺らしていた。♢チート級の討伐と隠しきれない能力 アリアが薬草を見つけて嬉しそうにしていると、ミーシャが不思議そうな顔で首を傾げ、大きな瞳でじっとアリアを見つめてきた。「えっとね、この葉っぱをね、わたしが集めてるんだー」 アリアがにこやかに説明すると、ミーシャの目がぱっと輝いた。新しいことを知る喜びに満ちた表情で、尻尾がふわふわと揺れている。「そうなんだー! わたしも手伝うー!」 ミーシャは嬉しそうに声を上げ、アリアの隣にしゃがみ込んだ。その様子はまるで、姉の真似をする妹のようだった。「アリアが喜ぶからって、一人で森に入って薬草を採
その言葉には、心からの同情と、ミーシャへの深い思いやりが込められていた。 アリアの優しさが、静かにユウヤの胸に染み込んでいく。「……ありがとう、アリア。」 ユウヤは、彼女が理解してくれたことに安堵し、そっと微笑むと、転移魔法を発動させて家へと戻った。 ──すると。「ユウちゃーんっ!」 玄関先に現れたユウヤに、笑顔いっぱいのミーシャが勢いよく駆け寄ってくる。 その姿を見たアリアも、ぱっと表情を明るくし、まるで反射するようにミーシャのもとへ駆け出した。 そして、ためらいもなくミーシャの手をぎゅっと握る。「わぁっ!? え? なに……?」 ミーシャは突然のことに戸惑い、目をぱちくりとさせながらアリアの顔をじっと見つめた。「ミーシャちゃん、わたしが一緒にいてあげるからね。」 アリアは、優しく微笑みながら語りかける。 その手は、ミーシャの小さな手をそっと包み込むように握っていた。「え? あ、うん……ありがと〜?」 ミーシャは戸惑いながらも、アリアのまっすぐな優しさに押されるように、少し照れたような笑顔で返事をした。 そして、ちらりとユウヤの方を見つめる。 その視線には、どこか安心と、ほんの少しの照れが混ざっていた。 ユウヤはその様子を見て、静かに息を吐いた。 ──このふたりなら、きっと大丈夫だ。(あ、そういえば……紹介してなかったな)「こっちは、俺のパーティメンバーのアリアだ」 ユウヤがそう紹介すると、ミーシャは少し緊張した面持ちで、ぺこりと小さく頭を下げた。ネコ耳がぴくりと揺れ、どこか落ち着かない様子が伝わってくる。「アリアちゃん……よろしく……」 その声はかすかに震えていたが、ミーシャなりに精一杯の挨拶だった。(あれ……? ミーシャが急に大人しくなってる…&he
そう言うなり、勢いよくユウヤの隣に座り、さらにそのまま膝の上に頭を乗せて寝転がってきた。小さな体が、まるでそこが定位置かのように心地よさそうにフィットする。「昨日は睨んできてたのに、今日は甘えてくるんだなー?」 ユウヤが少しからかうように言うと、ミーシャはむぅっと頬を膨らませた。口を尖らせて、不満げな表情を浮かべる。「だってー……知らない人が、勝手にわたしの家に入ってたんだもんっ」 その言葉に、ユウヤはふと表情を和らげた。(……そりゃそうだよな。両親を亡くして、家を追い出されて……大切な思い出の家に場所に、知らない奴がいたら、そりゃ不快な思いもするよな) ユウヤは、ミーシャの気持ちを改めて理解した。彼女の中にある寂しさや不安が、少しずつ言葉になって現れてきているのだと。「……ごめんな。驚かせたよな」 ぽつりとそう言うと、ミーシャは小さく首を振った。「ううん。今は……ユウちゃんがいて、よかったって思ってるよ」 その声は、どこかくすぐったくなるような優しさを含んでいた。「そりゃ……睨みたくもなるよな」 ユウヤが優しく言葉をかけると、ミーシャは少しだけ視線を逸らし、照れたように笑った。ネコ耳がぴくりと動き、ほんのりと赤く染まっているのがわかる。「ごめんね~? でも……ユウちゃんなら、住んでもいいよー」 その言葉は、まるで許しと歓迎を一緒に包んだような、柔らかい響きだった。「そっか……じゃあ、一緒に住もうな」 ユウヤが微笑みながらそう返すと、ミーシャの顔がぱっと明るくなった。「うんっ♪ 一緒に住むぅー♪」 ミーシャは嬉しそうに笑いながら、ユウヤの膝の上でくるりと体を丸めた。まるで、ようやく安心できる場所を見つけた子猫のように。 その小さな背中を見つ
「わぁ~! 美味しそう~! お肉~♪ お肉~♪」 ミーシャは、焼き上がる肉を見て目を輝かせた。湯気の立ち上るフライパンを覗き込みながら、尻尾をふわふわと揺らしている。その瞳は、まるで星が宿ったようにキラキラと光っていた。「味は……あんまり期待すんなよー」 ユウヤは、少し照れくさそうに肩をすくめながら言った。料理には自信があるわけじゃない。ただ、できる範囲で精一杯やっただけだ。「ん? 美味しいよー♪ ユウちゃん、料理もできるんだ~! すごーい!」 ミーシャは、焼きたての肉を一口頬張ると、満面の笑みでユウヤを見上げた。口元には肉汁がほんのり光り、幸せそうに尻尾をぱたぱたと揺らしている。 その姿を見て、ユウヤの胸の奥がじんわりと温かくなった。自信のなかった料理を、こんなにも嬉しそうに食べてくれるなんて。(おおぉ……俺、意外とやるじゃん。これ……普通に美味いぞ? もしかして、料理の才能あったりして?) そんなことを思いながら、ユウヤは思わず頬を緩めた。ミーシャの言葉が、素直に嬉しかった。「ふふっ、ありがとな」 照れ隠しのように笑いながら、ユウヤはミーシャの皿にもう一切れ肉を乗せた。♢ミーシャとの絆と新たな日常(えっと……臭いはなくなったけど、服がな……) ユウヤは、ミーシャの身なりに目をやった。彼女が着ているのは、くたびれたワンピース。ところどころ破れていて、布地も薄くなっている。肩口や裾には小さな穴が空いていて、見る人によっては妙に刺激的に映るかもしれない。(ボロボロのワンピースじゃ、かわいそうだよな……。昼にこっそり村に戻って、服を買ってくるか。ついでに家にも顔を出して、「しばらく戻れない」って伝えておかないとな) そんなことを考えながら、ユウヤはミーシャに声をかけた。「ミーシャ、今日の予定は?」 ミーシャは首を傾げ、ネ